誰かに提供していいのは、1ファゾムまで

長谷川 雄治
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BLUE B NOSE(以下:BBN)の関係者が生成AIを取り込んだサービスや同業他社に対して、悶々としていたので、パッと思いついたフレーズも強引に取り込んで記事にしてみました。
何だかんだで、引用ネタを生かした着地にもなったような......。

先回りして記事を書き溜めていたら、あっという間に春が来て、桜もすっかり葉桜に。
出会いと別れの新学期、年明け同様に年度初めで心機一転という感覚も抱きつつ、繰り返し巡ってくる桜や季節に「あれから何年」とか、「あと何回、桜を見られるかな」と咲いては散っていく桜を見ていると、物思いにふけたり、ちょっと哲学的になったりするのもこの時期ならではかもしれません。

丈が合わない真新しい制服に身を包んだ新入生や、明らかにスーツに着られているように見える新社会人を見て、「あの時、ああすれば良かったな」と過去の後悔を思い出したり、「自分も、もう少し若かったらな」と、「ない物ねだり」してしまうのも、繰り返しや積み重ねがはっきり見える今だからでしょう。

こういう様々なモヤモヤに対して、「全ては移ろいゆくもの」と教えてくれるのが、仏教の「諸行無常」。変わっていく表面的な出来事に執着しても、虚しさが残るばかりだったり、かえって苦しみが増えることもあります。

また、老子は「足るを知る」とも説いています。
「今ここにあるもの」に目を向けて、足りないことや不足ばかりに意識を向けるのではなく、既に持ち合わせているものや満たされている部分に気づくことで、心穏やかに暮らしていけるという人生哲学です。

メダルを重要なモチーフに選び、「欲望」をテーマに描いた作品『仮面ライダーOOO』の主人公である火野映司は「少しの小銭と明日のパンツがあればいい」が口癖であり、一見すると仮面ライダーシリーズで最も「足るを知る」に近い人物に思えます。(真相や実態については控えておきます)

https://dic.pixiv.net/a/%E7%81%AB%E9%87%8E%E6%98%A0%E5%8F%B8

今回の本題が全く見えてこない、タイトルと関連していないと思われそうですが、ここで注目したいのは火野映司が作中で語ったセリフ、「人が人を助けていいのは、自分の手が直接届くところまでなんじゃないかって」。自分の手が直接届くところまで、つまり「両手を左右にいっぱい伸ばしたときの幅」である1ファゾム(fathom)。日本語で言えば「尋(ひろ)」にあたる範囲です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%BE%E3%83%A0

昨今の生成AIブームや、生成AIを取り込んだ各種サービスやXaaS、それらの使い方を眺めていると、「自分の手が直接届くところまで」をはみ出しているようなケースが、ちらほら見受けられます。

今回は、AIを導入するにしても「自分の手が直接届くところまで」=1ファゾムに留めた方が良いのではないかと考える理由について、お伝えします。

目次

生成AI = 新幹線もしくはブルドーザー

Macintoshを世の中へ送り出したスティーブ・ジョブズは、動物の移動効率を比較した調査で、「自転車に乗ったヒト」は、それまで圧倒的だったコンドルをも凌駕するという結果に衝撃を受けたというのは、有名なエピソードでしょう。

彼は、コンピュータを「知性にとっての自転車」、知性を拡張する道具として捉えるようになりました。
なぜ自動車やオートバイではなく、自転車なのか。それは「自分のエネルギーだけで最も効率的な移動ができる」から。

つまり、エネルギー効率を高めるものの、あくまでも身体の延長線上に留まるということ。ハンドル操作だけでなく、アクセルもガソリンも自分自身が担っているので、下り坂で加速できたとしても、上限が決まっています。

原動機が付いた二輪車や、自動車の場合、機械の力を借りて、人の限界を簡単に上回るパワーやスピードを発揮できます。アクセルやブレーキに物理的な手応えがなければ、自覚しないうちにとんでもない速度へ至ってしまうかもしれません。

だからこそ、免許制度が制定され、法律や罰則が定められています。
最近では、自転車に関してもヘルメット着用が努力義務となり、交通違反への取り締まり強化を目的とした法律改正も行われています。

生成AIは、身体に直結していないという点で言えば、自転車より自動車に近いでしょう。
「Macintoshと一緒じゃないか」と思われそうですが、コンピュータで何かをやり遂げるためには、使用者の介入が必要な道具です。生成AIは、ほぼ全自動のお任せが可能な点で異なります。

今のレスポンスを鑑みると、とても信じられないでしょうが、生成AIを例えるなら、時速300kmで走行する新幹線や、それを上回るリニアや航空機、あるいはブルドーザー並みにパワーがある重機でしょうか。「あっ」と思った瞬間に、指示した方向へ突き進んでしまう。常にアクセル全開の道具です。

もし、人間をはるかに超えるパワーやスピードを、しかも瞬時に出せる道具や機械が目の前にあったとしたら、どう感じるでしょう?

ゆっくりと加速していくわけでもなく、途中で「止めよう」と思ってもすぐにトップスピードへ到達してしまう道具に対して、怖いと感じるはず。それが目の前に実在せず、物理的な危険性と直結していないから怖さを忘れているだけです。

全自動でお任せして、目を離しても大丈夫、信頼できると思っていても、期待や指示に反して裏切られる可能性はゼロではありません。そのため、取り扱いには慎重さが求められて然るべきだと考えています。

自分が実行しなくても、監督者責任は発生する

あっという間に加速する、自分が想定していない動きを見せるという点では、ペットや子供とも似ているかもしれませんね。自分とは違う自我を有する生き物だからと、リードから手を離して自由にさせたり、ふとした瞬間に目を離してしまった結果、事故に見舞われたり、怪我をしたりすることもあるでしょう。

その場で転んだり、何かにぶつかるといった自損や自傷ならまだしも、誰かを傷つけたり、物を壊していたら、どうしましょう? 第三者を巻き込む大規模な事故へ発展する可能性も、ゼロとは言えません。この時、被害者に対して「ペットがやったことだから」とか「子供がやったことだから」という主張を貫きますか? 飼い主として、保護者としての監督者責任からは逃げられないでしょう。

生成AIに置き換えても同様です。AIを使って何かを実行した際、万が一問題が発生した場合、「私は関係ない」と言い通せるでしょうか? 現在はまだ判断が難しいグレーゾーンであり、実行時のリスクに加え、訴訟関係のリスクについても十分に見通せていません。

生成AIブームを眺めていて気になるのは、AIに生成させた画像や映像、音楽を軽率にSNSへ共有していること。個人の私的利用の範囲に見えますが、「本当に大丈夫?」という懸念が常に付き纏います。

「何かあったら、サービス提供元が責任を取ってくれる」と考えているかもしれませんが、必ずしもそれが通るかどうかは不明です。利用規約の隙間をついて、使用者本人が民事や刑事で訴えられるリスクが隠れており、誰もその責任を担保してくれません。判例もまだ少ないので、どのような結果を招くか予測がつきにくい状況ですが、軽々に「皆んながやってるから」とリスクを負いますか?
個人的には、そのような行動は推奨できません。

しかしながら、世の中には危険な橋をユーザーに渡らせようとしたり、同業他社を唆すような輩も少なくありません。「何かあった時にどうするのか」を明確にしないまま、プロとして、あるいは仕事として、全てを生成AIに任せるという態度は、いかがなものかと思います。

何かが起こった時、誰かが責任を取らなければならなくなった時、その責任を負うのは、他でもない「使ったアナタ」。サービス提供者も生成AIも、責任を担保してはくれません。最終的に、監督責任者や主犯と看做されるのは、あくまでユーザー自身となる可能性が高いでしょう。

驚き屋、あるいはハーメルンの笛吹き男かも

「(プロ)驚き屋」とは、「SNSでChatGPTなどの最先端ツールやテクノロジーを、神・最強・ヤバすぎ、のような誇張表現を使って興奮気味に紹介し、時折それを自分にとって都合の良いように選んだ2、3個の成功例に基づいて、妄想や行き過ぎた主張を交えながら行う人」

『「プロ驚き屋」・「驚き屋」の意味と英訳』
( https://takashionary.com/ja/pro-odorokiya-meaning/ ) より引用

数年前だと「Web3」や「メタバース」、「NFT」と言ったキーワードで騒がしかった方々と概ね一致するでしょう。全く同じとは言いませんが、かつての情報商材屋界隈や、いわゆるアフィリエイター、一部のインフルエンサーも重複するイメージです。

インターネット上のねずみ講というか、反社のシノギだったり、特殊詐欺に片足を突っ込んでいる可能性もゼロとは言えません。

共通する特徴としては、「割りのいい儲け話」とか「万人に効果がある銀の弾丸」みたいな物言いだったり、「今決めないと、損しますよ」みたいな早い者勝ちを煽ったり、先行者利益を強調するような表現でしょうか。話題になっている時点で流行としては出遅れていて、ピークアウトはすぐなので、乗っかったところで下り坂でしょう。

「そんな話、ある訳ない」と思っていても、「もしかして」と思いますが、「割りのいい儲け話」も「銀の弾丸」も「賢者の石」や「不老不死の霊薬」みたいな幻なので、笛を吹かれてもついていかないことが肝心です。

「生成AIを使った画期的なサービス」とか「生成AIを使えば仕事が簡単にできる」みたいな表現に対しても、冷静になって考えることをオススメします。景品表示法的に問題ない表現か、薬機法に則っているか、ステルスマーケティングになっていないか、または特定電子メール法や著作権法に違反していないかとか。相手の話を鵜呑みにしないことがファーストステップです。

現時点では、本職のエンジニアや大手企業を除けば「驚き屋」か、「ハーメルンの笛吹き男」の可能性が高いので、よほど信頼がおける相手やサービスでない限りはいったん距離を置く、少なくともセカンドオピニオンを求めるという判断が、賢明でしょう。

相手のオファーに乗っかってもいいのは、「自分の手が直接届くところ」。つまり、1ファゾムまで。
1ファゾムまでなら身の丈の責任しか発生しないので、万が一のトラブルが起きたとしても、「何かあったら自己責任で」と言える範囲、実際に自分で担保できる範囲に収まるでしょう。

生成AIの利用も、1ファゾムで

生成AIが便利なことは分かっているし、どうしても使いたいと言うのであれば、自分で責任が取れる範囲、つまり1ファゾムの範囲内で利用することをオススメします。

より具体的に言うなら、「中間生成物まで」に留めること。
最終的な成果物は、必ず自分の目と手で「これで問題ない」と確認するようにしましょう。
自分の目で目視し、責任を持って保証する。この意識を持っておくだけでも、「自分の手が届く範囲」を逸脱しにくくなるはず。

裏を返せば、自分を身の丈以上に見せようとしないこと。過度に優秀だとアピールせず、「足るを知る」姿勢を持つことが肝心です。昔から「立って半畳、寝て一畳」と言いますし、無理に背伸びをすれば、どこかに綻びが生じて破綻してしまいます。承認欲求を満たそうとして自分自身を着飾るのは構いませんが、帳簿の「お化粧」に手を染めると大変なことになります。

プロとして、あるいは仕事として、自分以外の誰かに影響を与える立場にあるのであれば、余計に「何かあった時」を想定して、責任が取れるように備えておくべきです。「自分ではない誰かがやってくれるから」ヒトに任せるわけですが、それは同時に「その人が責任を請け負ってくれる」こと、あるいは「担当として責任を分担できる」から、任せられるのです。

人と人が協力して仕事をするのは、お互いが「自分の手が直接届くところまで」責任を担保し合えるから。もしそれができないなら、生成AIで十分という話になってしまいます。

だからこそ、人と一緒に働く意味を改めて考えてみても、「1ファゾムまで」が基本でしょう。

生成AIを使うにしても、そのアウトプットを誰かに提供するにしても、「自分の手が届く範囲」を超えないこと。それが、最も健全な距離感だと私は思います。

誰かと手を繋げば、限界はない

「自分の手が届く範囲」をどうしても超えていきたいなら、生成AIに頼るのではなく、他の誰かと手を繋ぎましょう。一人で何でも抱えて解決しようとすると、上手く行きません。

また、生成AIを取り入れたXaaSだから、生成AIを活用しているサービスだから。その肩書きや仕組みだけを見て手を取り合っても、肝心の「責任を取れる範囲」は広がりません。

大切なのはAIの有無ではなく、「ヒト」として繋がること。 誰かに仕事を任せる意味、誰かと協働する意味を、もう一度よく考えた上で「どこまでも届く」無限の広がりを目指しましょう。

身の丈を超えて足りないことに執着してしまうと、結局それに振り回されてしまって、人生も仕事もイニシアティブを失いかねません。限界を認識し、自分で責任を負える範囲、1ファゾムまでで満足することを改めてオススメします。

生成AIや関連サービスの利用も、無理なく、計画的に。

さて、1ファゾムを超えない範囲でAIを導入しているBBNと、我々がしっかり手綱を握っている計画的なWebサイト制作やマーケティングに、取り組んでみませんか?

少しでも気になることがあれば、いつでも気軽にご相談ください。

1ファゾムを意識した情報発信

手が届く範囲でしっかり人間が責任を担保しなきゃいけないよね、というお話はこちらの記事でも触れています。ぜひ、ご参照ください。

近くて遠い、悠久のラストワンマイル

SGEやAI検索が普及したら、SEOやWebサイトは要らなくなる。そんな物言いに対するBLUE B NOSE(以下:BBN)の考え方を、「ラストワンマイル」や『500マイル』を絡めながらご説明しています。
店舗さん向けの情報も盛り込んでいるので、お楽しみいただけますと幸いです。
長谷川 雄治
ノウハウ

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長谷川 雄治
昭和63年生まれ。大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科卒。
2011年からWeb制作に従事。コーディングやWordPressのカスタマイズ等を主に経験を積む。2013年、仮面ライターとして独立開業。マーケティングや企画、上流も下流も幅広く対応。
コーディングとコンテンツ制作の同時提供を考えるヘンな人。
BLUE B NOSEでは開発等を担当。

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