伝統や定番は、秋冬に作られていく

長谷川 雄治
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一年間の振り返りをまとめようと思っていましたが、記事の並びを見たときに「ちょっと違う気がする」と思ったので、季節ネタから別の話を展開してみました。
クリスマスや年末年始を意識するタイミングだからこそ、この時期に目にするマーケティング、ブランディングに関するお話です。

昨夜がクリスマスイブで、今日がクリスマス。その前の週末に、素敵なクリスマスパーティを楽しんだ方もいらっしゃったでしょう。皆さんは、いかがお過ごしですか?

クリスマスといえば、やっぱりサンタクロースやプレゼントでしょう。クリスマスの本場というイメージがある欧米では、多様性への配慮から”Merry Christmas!”ではなく、”Happy Holiday!”が主流になりつつあるようですが、それでもこの時期のセールやクリスマスムードは例年通りに盛り上がっていますね。

さて、そのサンタクロースと言えば、どんなイメージでしょう?
フィンランドのサンタクロース村やサンタクロース協会といった「公式」もありますが、赤い衣装に白い髭をたっぷり蓄えた、恰幅のいい年配の男性を思い浮かべることでしょう。

欧米以上に、日本人の中で一般的となっているこのサンタクロースのイメージですが、実はコカ・コーラ社のキャンペーンによって作り上げられたものとなっています。

コカ・コーラ社のWebサイトでも、

といった記事を掲載しています。

日本国内でサンタクロースと並んで、「クリスマスと言えば」に上がりそうなのは「チキン」。その中でも特にKFCでしょうか。欧米では定番に入りそうにないケンタッキーフライドチキンが、日本へやってきたのは、前の大阪万博の頃。コカ・コーラ社と結びつきが強そうなマクドナルドも、日本で第1号店がオープンしたのはその翌年。

KFCのクリスマス時期のCMソングとして定着している、竹内まりやの『すてきなホリデイ』は2000年から、クリスマスと聞いて思い浮かぶもう一つの楽曲、山下達郎の『クリスマス・イブ』は1988年からJR東海が展開した「クリスマス・エクスプレス」のCMに採用されています。

その他に、松任谷由実の『恋人がサンタクロース』や稲垣潤一の『クリスマスキャロルの頃には』、広瀬香美の『ロマンスの神様』といった国内の名曲に加え、WHAM!の『ラスト・クリスマス』やマライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス』など、クリスマスや冬の定番と言われそうな名曲が、昭和の終わりから平成にかけて制作されました。

「クリスマス」や「冬」と結び付き、毎年のように繰り返し親しまれることにより、今や定番となっています。こうして見てみると、現在「伝統」や「定番」と呼ばれているものの数々は、実は二、三十年前に広がったものだったり、どこかの企業が一生懸命作り上げたりしている、というのがよく分かります。

「〇〇と言えば、××」の認知を獲得し、お客様の中に明確なプレゼンスを示すというのは、マーケティングとして非常に興味深いテーマものでもあるので、今回は「伝統」や「定番」の意外さや「季節」との関係について、じっくり掘り下げてみましょう。

目次

江戸時代や明治以降からの伝統、文化が多数

今の時期に欠かせない野菜の一つ「白菜」。現在のスーパーで見かける結球種の白菜が食卓へ普及したのは、実は昭和初期、20世紀に入ってからだとか。白菜は交雑性が強く、非結球種が漬け菜として度々伝来したものの、品種として維持できるようになるまで、相当の時間がかかったのだとか。

昔から漬物として親しまれてきたように思ってしまいますが、時代劇に現代と同じ白菜が登場してしまうと、時代考証的には落第とみなされるものの一つでもあるようです。

書簡や書状を通じた年始の挨拶は古くからあったものの、郵便ハガキによる年賀状の風習が広まったのは、郵便制度が確立した明治以降です。除夜の鐘も、風習そのものは古くからあるものの、現在のようなスタイルとしては昭和初期のラジオ中継がきっかけだそうです。

除夜の鐘 – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%A4%E5%A4%9C%E3%81%AE%E9%90%98

お節料理やお雑煮も原型は奈良時代や平安時代、さらに遡れば弥生時代にまで痕跡があるとされていますが、”昭和40年代には、メディアを通して広められた華やかなおせち料理のイメージが定着” とのこと。

時代とともに変化し続けてきた お正月とおせち料理 (https://www.marukome.co.jp/marukome_omiso/hakkoubishoku/20231228/18779/

よくよく考えれば当然の話ですが、物流や経済基盤が整備され、生活インフラもある程度普及しなければ「同じもの」を全国津々浦々まで広めることは困難ですし、メディアが発達しなければモデルとなる姿やイメージを広めることも難しいでしょう。

そもそも、明治以降に新暦が採用された時点で、暦に基づく文化や風習は旧来のものから一旦切り離され、刷新されていると見るのが当然です。原型となる風習や慣習はあったとしても、現代に続く「伝統」や「文化」、「定番」は江戸末期以降、特に明治以降や昭和初期に形作られたものが多く存在する、というのが意外すぎる事実です。

季節や慣わし、祭りや行事に基づくと根強い

近年は暑い時期が長く、春や秋はほとんど感じられないため、「四季はなくなった」という意見もよく耳にしますが、毎年のように繰り返し巡ってくる季節や、地域や生活に定着した慣わし、お祭りや行事に関する伝統や文化については、江戸以前のものも比較的残っている印象です。

例えば、春先の花見や秋口の月見、晩秋の紅葉狩りといった文化は、古くから続いているものの代表でしょう。花見の対象が梅から桜、桜の中でもソメイヨシノへ移り変わっていく歴史はありますが、梅や桃を愛でながら暖かくなるのを待つのは、今も昔も変わりません。

また、気候や体感としては「はっきりとした四季」が失われつつあるように思われますが、「食」や「イベント」に関しては、日本ほど季節を敏感に捉え、楽しむ国は他にないでしょう。青果の旬の移り変わりはもちろん、魚介類も季節ごとに主役が移り変わります。それだけでなく、旬があまり関係なさそうに思えるお菓子やハンバーガーといった加工品にも、「期間限定」の商品が次々に登場します。

世界中に展開しているキットカットに、桜味や抹茶味が当たり前に存在するのは日本だけでしょうし、秋になるとサツマイモやカボチャ、栗といったフレーバーが季節の移ろいに合わせて次々と登場するのも、日本市場ぐらいでしょう。

夏場はなんとなく塩やレモンが登場し、チョコミントフレーバーが増えたかと思えば、お盆過ぎには梨や葡萄が秋の先発隊としてお目見えし、徐々に秋本番の味覚や柿が増え、徐々にミカンを筆頭とする柑橘類が出て来ます。シーズンはあまり関係なさそうな、濃厚なチョコレートやカフェオレ、深めのコーヒー味も、なぜか秋冬に固まるイメージです。

秋に増えるといえば、卵を使ったハンバーガー。最初に市場へ投入したのは日本マクドナルドですが、単純に「卵」を商品名にせず、”たまごの黄身を月に見立てて、日本ならではの季節感を取り入れた『月見バーガー』と命名された”のが慧眼だったと言わざるを得ません。

初公開! マックの秋の定番『月見バーガー』誕生秘話 (https://www.mcdonalds.co.jp/burgerlove/static/burger/376/index.html) より引用

1991年の登場以来、「秋になれば」と季節の定番商品として30年以上愛されています。マクドナルドの成功を追いかけるように、今やハンバーガーチェーンだけでなく、喫茶店の「コメダ珈琲店」でも毎年登場するようになり、各社の「月見商戦」も定着しつつあります。

日本マクドナルドと季節の話題で行くと、月見の後に登場する「グラコロ(グラタンコロッケバーガー)」も、1993年以来冬の定番商品となっています。こちらも、同業他社や飲食店、コンビニ等を巻き込んだ「グラコロ商戦」も伝統の域へ突入していると言っていいでしょう。

競合他社と競い合う結果、新たな定番や「〇〇の季節」を作り上げている。その団体芸の結果、日本の市場はガラパゴスながら非常に豊かなものとなっています。

秋から春先は、家族が集まりやすい

興味や関心が多様化し、マスメディアの働きかけが以前ほど効果を発揮しにくくなった現代ですが、秋から春にかけての寒い季節、特に年末年始のシーズンは、離れて暮らしていても「一緒に過ごす」機会が増えるのは、どの国でも共通しているでしょう。

世代や好みがバラバラな家族が集まれば、特定の誰かの意見よりも、全員が受け入れやすい無難な意見、「ド定番」が選ばれやすくなるでしょう。年長者であるおじいちゃんやおばあちゃんの意見を優先し、「この時期、どうしてたっけ」という話題に集約されるのも、よくある光景かと思われます。

家族で集まり、食事や行事といった「何か」に向き合う。寒い季節には家の中で過ごす時間が増え、親や年長者に意見を聞いたり教えを請う中で、「我が家の伝統」や「家族の文化」が少しずつ形作られていきます。それを何年も繰り返せば、多少の変化はあったとしても自然と「定番」が定まっていきます。

つまり、家族が一人一人バラバラで外へ出ていきやすい季節を狙って、「定番にしたいもの」を投入するより、秋から春先にかけて、特にクリスマスシーズンから年末年始にかけての特定の出来事に結びつける形を狙って施策を展開する方が、より効果的である可能性が高いと言えそうです。

クリスマスシーズンの前後から、テレビ番組やCMも特番や似通ったものが増えるでしょうし、家族で同じものを見ることも増えるでしょう。そうなると、コカ・コーラ社がクリスマスの時期に、例のサンタクロースのイメージを定着させるようなキャンペーンを行えば、サンタクロースを見ればコカ・コーラを思い出すようになりますし、クリスマスといえばコカ・コーラが結び付くようになるでしょう。

また、実は新参者だった白菜ですが、家族で夕食に一つの鍋を突く際に、いつも具材として入っていれば、自然と「冬の定番」の地位を築くのも不思議ではありません。

ちなみに、年末年始の季節からは少しズレますが、1972年の2月にあさま山荘事件で機動隊に「カップヌードル」が配られた(https://www.nissin.com/jp/about/history/topics/817)のも、寒い時期の出来事です。完全に偶発的な事件ですが、コレをきっかけにカップヌードルが認知され、爆発的に売れるようになったと言われています。

また、年末年始やお盆など、家族が集まる時期に大きなニュースや出来事があると、家族全員で同じ番組を見ながら「あれから何年」と毎年のように振り返ることも多く、その度に「あの時はこうだった」と、何度も聞かされた思い出話を記憶に漆塗りするというのも、よくあるでしょう。

つまり、秋口の「月見」から春先の「花見」の間にある、毎年恒例の出来事やそれに結びついた商品、そこから来るイメージというのは、年を重ねるごとに印象が深められ、毎年のように刷新と定着が繰り返されやすい、興味関心の分散も防ぎやすい、とも言えそうです。

コンテンツマーケティングで、自ら定番化を仕掛けるべし

クリスマスと商品、あるいは特定の季節とブランドイメージを結びつけ、お客様の脳内で確かな認知とプレゼンスを獲得したいなら、偶然に頼るのではなく、自ら戦略的に定番化を目指して働きかける必要があります。

ここで重要なポイントは、「季節」に敏感になることと、どのイベントや行事と結びつけるかを慎重に選ぶこと。理想的なのは、毎年必ずやってきて、同じ日付や特定の曜日で起こるイベントです。「土用の丑の日」のように著名な行事でも、「結局、いつだっけ?」となってしまうので、日付が変動するもの、時期が変動しやすいものは避けましょう。

もう一つの鍵は、「コンテンツマーケティング」を駆使すること。
使用する「コンテンツ」はなんでも構いませんが、可能ならテキストのみではなく、視覚的なビジュアルや、可能なら音楽を含めた動画がベターでしょう。

商品やサービスを直接PRするのではなく、クリエイティブそのものを目立たせる形が良いでしょう。コンテンツのクオリティを重視し、毎年同じテーマで作品を発信し続けましょう。ある程度のコストは必要ですが、無理のない範囲で背伸びするぐらいがちょうど良いかと思います。

マクドナルドの「グラコロ」は「グラコロ」と繰り返す歌で刷り込みに成功していますし、コカ・コーラは例のビジュアルでサンタクロースのイメージ形成に成功しています。JR東海は、新人に近い女優さんの起用とショートフィルムのような演出に曲を合わせ、視聴者の心をグッと掴んでいます。

大手がそうやって定番、伝統を作り上げているのなら、弱者も真似すべきでしょう。
お客様が「〇〇と言えば」と認知してくれていること、更に「定番はこれ」と指名して選んでくれる状況というのは、この上なく有利な環境です。広義も含むコンテンツマーケティングで、目指したい一つの極致でしょう。

コンテンツの一つ一つや施策の一つ一つをレンガに見立て、攻めにも守りにも有効な城壁を作り上げるイメージで、認知やプレゼンスを高めていく。定番や安定という土台を手に入れるために、自ら積極的に仕掛けていきましょう。

定番が確立すれば、斬新さや「崩し」も活きる

「伝統」や「文化」を意識しやすい年末年始だからこそ、伝統に対抗するような斬新な取り組みも、注目されやすい時期でしょう。クリスマスであれば、シュトーレンやクリスマスツリーのオーナメント、ケーキやオードブルなどで、個性を出したり、「あえて」と大胆な発想で大きく崩した変わり種が登場するのも珍しくありませんし、その創意工夫を楽しみにしている方もいらっしゃるでしょう。

年始にかけては、バリエーション豊かな変化や、今までになかった組み合わせや発想を、お節料理に見出すこともあります。お笑いの賞レースや音楽番組で、定番とは異なるパフォーマンス、ハプニングを見る機会も増えるでしょう。

定番という一定の型があり、それが周知されるからこそ、それを活かした対比の取り組みを活かすことができます。武道や茶華道のように、既存の型があってそれを踏襲するだけでなく、自分たちで新たに型を定義し、それを守り残していく。

定番や伝統、文化を新たに創造する上でも、型と「守破離」、特に「守」が大事。とことん「守」を経て型破りになるか、型も学ばずに形無しになるか。どちらが良いかは、言うまでもないでしょう。

斬新な発想力、企画力を活かすためにも、「ド定番」や「伝統」とそれを自ら構築する取り組みが欠かせません。「お前、ベタやなぁ」と言われても、気にせず選んでもらえる「ベタ」を作りあげましょう。

コンテンツマーケティングを上手く活用して、世間の皆様に揺るがぬイメージや認知を持っていただくために、今から何ができるか、どんな案が考えられるのか。年末年始の長期休暇へ入る今の時期、寒い季節にこそ、じっくり腰を据えて考えるのが良いかもしれませんね。

1年間、ありがとうございました

BBNは、日々の取り組みを通じ、定番と言える認知や存在感の構築、頑張り続けなくてもいいエコシステムの提供を目指しています。自分たちのオンラインプレゼンスの形成、コンテンツマーケティングも未熟そのもので至らぬ点ばかりですが、もしよろしければ我々と共にWebサイト制作、Webマーケティングに取り組んでみませんか?

さて、自らの実力不足、準備不足を痛感した2024年の発信も、この投稿が最後です。

約一年間、隔週で合計26本分もお付き合いいただき、ありがとうございました。

2025年も引き続き、5000字前後で文字だらけなのに最後までサクサク読めて、独自の目線と語り口で面白いコンテンツ、学びのあるコンテンツを目指し、発信していく予定です。時事ネタや技術ネタ、エヴァーグリーンなコンテンツも出していければと思っていますので、本サイトのプッシュ通知をONにしたり、noteのアカウントをフォローしたり、その他のSNSもチェックしたり、引き続きご愛顧いただけますと幸いです。

どうぞ、良いお年をお迎えください。

2024年1本目の記事もどうぞ

今年一番最初に投稿した記事も、ぜひご一読ください。次回は、年明けにお会いしましょう。

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長谷川 雄治
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長谷川 雄治
昭和63年生まれ。大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科卒。
2011年からWeb制作に従事。コーディングやWordPressのカスタマイズ等を主に経験を積む。2013年、仮面ライターとして独立開業。マーケティングや企画、上流も下流も幅広く対応。
コーディングとコンテンツ制作の同時提供を考えるヘンな人。
BLUE B NOSEでは開発等を担当。

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